7月29日(土)九州芸術祭<文学カフェin熊本シティ>を開催

(公財)九州文化協会は7月29日、熊本市のウェルパルくまもとで九州芸術祭 「文学カフェin熊本シティ」を開催します。伊藤比呂美さんが「わたしはどうやって何を書くか」と題して語り、参加者への創作指導もいたします。

日時・申し込みの詳細はこちら

 

日時 2017年7月29(土)1時~3時(12時30分開場)
会場 ウェルパルくまもと(熊本市中央区大江5丁目1-1)
定員 30名 ※事前のお申し込みが必要となります。
入場 無料

♦お申込み♦
官製はがきにて名前、住所、連絡先の電話を記載してお申し込みください(6月末必着)。定員を超えた場合は抽選になります。当選者には折り返し案内文を送ります。

〒860-8601 熊本市経済観光局
文化・スポーツ交流部 文化振興課 宛て

 

●主催 (公財)九州文化協会、熊本市、佐賀県、福岡県、大分県、長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県、福岡市、北九州市、熊本市
●共催 熊本文化協会、西日本新聞社、福岡文化連盟

伊藤比呂美さん
1955年、東京都生まれ。78年、『草木の空』でデビュー。80年代の女性詩ブームをリードする。97年に渡米した後、熊本に住む両親の遠距離介護を続けていた。99年、『ラニーニャ』で野間文芸新人賞、2006年、『河原荒草』で高見順賞、07年、『とげ抜き新巣鴨地蔵縁起』で萩原朔太郎賞、08年、紫式部文学賞を受賞。15年、坪内逍遙大賞を受賞。 著書に「良いおっぱい 悪いおっぱい〔完全版〕」『女の絶望』『読み解き「般若心経」』『犬心』『先生!どうやって死んだらいいですか?』(山折哲雄氏)との近著)近著に、『切腹考』がある。

第48回九州芸術祭文学賞、作品を募集

第48回九   第48回九州芸術祭文学賞の作品を募集します。応募資格は九州・沖縄在住  者であること。400字詰め原稿用紙で55枚~60枚の未発表作品が対象です(パ  ソコン打ちも可)。締め切りは8月31日。最優秀作には賞金30万円と副賞「青木秀賞」(20万円)が贈られ、作品は『文學界』4月号(文藝春秋刊)に掲載されます。最終選考委員は、作家の五木寛之、村田喜代子、又吉栄喜の各氏と『文學界』の武藤旬編集長。問い合わせや既刊の作品集(1,000円)の購読希望は(公財)九州文化協会=電話092(406)8581。詳細は応募要項をご覧ください。

 

第48回九州芸術祭文学賞募集要項

 

 

いま漱石に学ぶ意義「透徹した文明論」 姜尚中さん講演 九州芸術祭文学賞表彰式

第47回九州芸術祭文学賞(九州文化協会など主催、西日本新聞社など後援)の表彰式が3月11日、北九州市で開かれ、政治学者で熊本県立劇場館長の姜尚中(カンサンジュン)さんが「漱石のことば」と題して記念講演を行った=写真。同題の著書もある姜さんは「夏目漱石は4年ほど熊本にいたのに、1年しかいなかった松山市との関わりが全国的に知られている。漱石を松山から奪還するミッションが僕に下っている」と話し、会場を沸かせながら、漱石作品と熊本との関わりや独自性などを語った。
姜さんは、漱石の自筆資料を見たり、漱石の滞在先を巡ったりした経験から「火宅の人とは正反対。生活は実直で、ある意味では私たちに近い人」と推察する。その上で「三四郎」「二百十日」「草枕」など熊本ゆかりの作品を挙げ、「内面に孤独を抱えた者が、どんな人間関係をつくるか。法律以上に大きく影響する『世間』とは何なのか。近代日本を生きる人の生活から、国の仕組みまでもあぶり出す」と漱石の功績を語った。
また熊本と、留学先のロンドンという、漱石にとっての“異郷生活”を深く考察する必要を語る。「現代の『グローバルか反グローバルか』と同じように、明治も『欧米万歳か国粋主義か』のせめぎ合いの岐路だった」とした上で、「漱石は英語、日本語、漢語の世界を知っており、どの世界にも惑溺(わくでき)せず、内面に葛藤を抱え込んだ。だからこそ透徹した文明論を書けた」とみる。
この日は東日本大震災から丸6年がたった日。「あれから社会は変わらなくてはいけないと戦慄(せんりつ)したはず。男と女がおり、家族があり、その先に世間がある。漱石に学ぶものは多い」と作品を読み直す意味を語りかけた。(大矢和世=

姜尚中さん

西日本新聞文化部)

第47回九州芸術祭文学賞を受賞して  尾形牛馬

受賞の喜びを語る尾形さん

妻の死、大地震、そして受賞

その日の夕方、朝からかたくなに沈黙を続けていた家の電話のベルが鳴った。「おめでとうございます。九州芸術祭文学賞の最優秀賞に決まりました」。打率2割2分の野球選手がまぐれでホームランを打ったようなものである。家の中を走り回りたいほどうれしかった。しかし私は精いっぱい落ち着いたふりをして答えた。「はい、分かりました。ありがとうございます」。大根役者の見え見えの下手な演技。見破られていたに違いない。
思えば、この小説ができ上がるまでの間に二つの大きな出来事があった。一つは苦楽を共にしてきた妻の死、もう一つは地元熊本の大地震である。
妻は健康で元気な頃、こう言っていた。
「私はね。死そのものはそんなに怖くはなかとだけど、その先にある永遠という時間を考えると、身の毛がよだつほど恐ろしかとよ」
私もこう言った。
「オレもそうだよ。死後の永遠という時間を考えると、恐ろしくて身震いがするとだよ」
その妻が進行性のがんにかかって、一昨年の末、身の毛がよだつ程恐ろしい、永遠という時間の中に旅立ってしまった。
もう一つは大地震である。4月14日の夜9時過ぎ、震源地、熊本県益城町近辺にある私の家はガタガタミシミシ、縦に横にと揺れ、命の危険を感じた私は、家を飛び出して避難所になっているH中学校の方向に向かって逃げた。逃げる途中も道路が揺れるので、ゆらゆら揺れながら逃げた。地面も人も電柱も空も揺れていた。
H中学校の運動場には100人を超える人たちが避難していて、大きな揺れがくる度に、地面の底からわいてくるような、異様な人の悲鳴が上がった。灯のない真っ暗な夜の闇。きらきら光っている満天の星。恐怖におびえるわれら人間。非情にも大地の揺れは止まらなかった。
日付が16日になったばかりの深夜、揺れが止まってほっとしているところに、もう一つもっとでかいのが襲った。
私の小説はこんな出来事を経てでき上がった。
ところで、私は酒を飲み出すと止まらないアルコール依存症者である。依存症満開の頃、暴言、暴力、事故、事件、人様にはとても口にできないようなことを次から次へとやらかしてきた。16年前、2度目の精神科病院への入退院後、別居していた妻のアパートで生活を始め、酒を飲む代わりに小説を書き始めた。
自分には才能がないのは分かっているので、どんな下手な小説でも良いから一つだけでも書き上げたい。登場人物がいて、筋があって、せりふがあって、始めと終わりがあって、あまり誤字のないものを。書き終えたら、その原稿用紙を重ねて、手で感触を確かめたり、近くから見たり、遠くから眺めたりしてみたい。そんな気持ちであった。
以来16年、酒を飲まずに下手な小説を書き続けている。
そんな自分が賞をもらうなんて夢のようだ。

おがた・ぎゅうま 1942年熊本市生まれ。早稲田大卒。同大在学中に同人誌「新人文学」同人。同市内の高校で英語教諭として勤務。アルコール依存症を患い、精神科病院に2度入院した。2007年、依存症の体験を基にした小説集「窓の葉書」を自費出版した。同市東区在住。写真は11日、北九州市であった授賞式で。

◇受賞作「酒のかなたへ」は発売中の文学界4月号に掲載されている。

第47回九州芸術祭文学賞表彰式

尾形さん「勇気持って書けた」

第47回九州芸術祭文学賞(九州文化協会など主催、西日本新聞社など後援)の表彰式が11日、北九州市小倉北区の小倉井筒屋パステルホールであり、受賞者に賞状などが贈られた。
「酒のかなたへ」で最優秀作に選ばれた尾形牛馬さん(74)=本名尾形和法、熊本市東区=は「下手な小説を書いていると気が重かったが、受賞して、勇気を持って書けるようになった。一昨年、がんで亡くなった妻と喜び合えないのが残念」とあいさつした。
式には九州・沖縄8県と福岡、北九州、熊本3市の計11地区優秀作・次席受賞者のうち16人と、選考委員の作家村田喜代子さんと又吉栄喜さんも出席した。
記念講演は政治学者で熊本県立劇場館長の姜尚中さんが「漱石のことば」と題して行った。「夏目漱石は、近代の人間が自我を持って生きる中で、どれほど孤独に耐えられるのか。『世間』を描くことで近代日本の仕組みまで見通した」と語った。

 

最優秀賞を受賞した尾形さん