九州文化協会は2月11日、「九州芸術祭文学カフェin佐賀」を佐賀市で開催しました。作家の藤野可織さんと千早茜さんが、九州芸術祭文学賞佐賀県選考委員・草場雅裕さんをコーディネーターに対談しました。会場のエスプラッツホールには約100人の文学ファンが集まりました。2月17日に掲載された西日本新聞の記事を転載して、対談の一端を紹介します。
「純文学は既存の価値観を壊す」 藤野可織さん
「エンタメは社会への問題提起」 千早 茜さん
藤野可織さんと千早茜さん、同世代の女性作家2人が2月11日、佐賀市であった「九州芸術祭文学カフェin佐賀」で、「作家を志した瞬間~想像から創造へ」をテーマに語り合った。話題は小説を書くようになった経緯から純文学と娯楽小説の違い、創作の訓練法にまで及んだ。
1980年生まれの藤野さんと79年生まれの千早さん。藤野さんは2006年に「いやしい鳥」で文学界新人賞を、千早さんは08年「魚神」で小説すばる新人賞をそれぞれ受賞し、デビューした。
作家を志したきっかけについて、藤野さんは「学生時代は美術館の学芸員になりたかったが、大学院の修士論文を書いている最中に、幼い頃から絵本が好きで、自分はお話を書く人になるものだと信じ込んでいたことを思いだし、小説を書き始めた」。千早さんは「幼い頃から日記を付け、国語教師の母親に毎日、添削を受けた。そこから自然な感じで作家を目指した。29歳でデビューすると自分で決め、それまではネタ集めのためにアルバイトをいくつも掛け持ちして働いた」と話した。
その後、藤野さんは純文学を書き続け、2013年に芥川賞を受賞。千早さんは幻想小説や恋愛小説など幅広くエンターテインメント小説を書き、島清恋愛文学賞などを受賞してきた。
書く小説のタイプが異なると、編集者との関係も対照的という。千早さんは「エンタメ文学は、次は恋愛ものでとかサスペンスでとか、けっこう要望がある。それをどう料理するかは任せてもらっている」。藤野さんは「純文学は割と自由。どんどん書いて、とは言われるが、自分への駄目出しの連続でなかなか出せない。追い立ててもらって、やっと形になっている」
創作におけるテーマについて、藤野さんは「既存の価値観を壊すのが純文学。全然違う価値観を提案できる」。一方、千早さんは「エンタメは社会の不条理や虐げられた人の苦しみに主題がいく。問題提起の部分が大きい」と語った。
「小さい頃からメモ魔」という千早さんが「映画を見ながら情景を文字でスケッチする。映画をいかに文字で書くかを練習している」と話すと、藤野さんも「それは小説を書く上で役に立つ訓練。感情は要らないから、見えたものを見えたまま正確に書き起こすことが大切」と応じた。
(江藤俊哉・西日本新聞文化部)