いま漱石に学ぶ意義「透徹した文明論」 姜尚中さん講演 九州芸術祭文学賞表彰式

第47回九州芸術祭文学賞(九州文化協会など主催、西日本新聞社など後援)の表彰式が3月11日、北九州市で開かれ、政治学者で熊本県立劇場館長の姜尚中(カンサンジュン)さんが「漱石のことば」と題して記念講演を行った=写真。同題の著書もある姜さんは「夏目漱石は4年ほど熊本にいたのに、1年しかいなかった松山市との関わりが全国的に知られている。漱石を松山から奪還するミッションが僕に下っている」と話し、会場を沸かせながら、漱石作品と熊本との関わりや独自性などを語った。
姜さんは、漱石の自筆資料を見たり、漱石の滞在先を巡ったりした経験から「火宅の人とは正反対。生活は実直で、ある意味では私たちに近い人」と推察する。その上で「三四郎」「二百十日」「草枕」など熊本ゆかりの作品を挙げ、「内面に孤独を抱えた者が、どんな人間関係をつくるか。法律以上に大きく影響する『世間』とは何なのか。近代日本を生きる人の生活から、国の仕組みまでもあぶり出す」と漱石の功績を語った。
また熊本と、留学先のロンドンという、漱石にとっての“異郷生活”を深く考察する必要を語る。「現代の『グローバルか反グローバルか』と同じように、明治も『欧米万歳か国粋主義か』のせめぎ合いの岐路だった」とした上で、「漱石は英語、日本語、漢語の世界を知っており、どの世界にも惑溺(わくでき)せず、内面に葛藤を抱え込んだ。だからこそ透徹した文明論を書けた」とみる。
この日は東日本大震災から丸6年がたった日。「あれから社会は変わらなくてはいけないと戦慄(せんりつ)したはず。男と女がおり、家族があり、その先に世間がある。漱石に学ぶものは多い」と作品を読み直す意味を語りかけた。(大矢和世=

姜尚中さん

西日本新聞文化部)